『天元突破グレンラガン』『キルラキル』の今石洋之監督と脚本家中島かずきのタッグ再び―!
『グレンラガン』『キルラキル』、劇団☆新感線、堺雅人ファンは観よう。そうじゃない人は小学生の気持ちになって観よう。ほとばしる熱気を浴びて灰になろう。
ケレン味にあふれたハイテンションなアクションに、カトゥーン系のポップさのある記号やビビットな色味を多様した挑戦的なビジュアル、歌舞伎のような大見得きりに、少年マンガ的展開など「虚構ならではの爽快感」があるTRIGGERらしさ全開だ。
熱い映画を期待していったので大満足。最高だった。劇中のセリフ「燃えていいのは魂だけだ」どおり、生物の持つ――生きる根源的なエネルギーである気力――魂を奮い立たせる。
私事で恐縮だが先日祖父が亡くなった。生きる気力がなくなってからは人間こうも衰えるものかと見ていて思った。そんな出来事が重なったのでなんだか元気出た。「燃やさなければ生きてはいけない」が心に刺さる。
(2024/11/21 02:19:37時点 Amazon調べ-詳細)
信頼
ポスターやPV見て「はじめは敵対していた熱血漢のガロとクールなリオが共闘して黒幕っぽそうなクレイを倒す展開になるんだろうなー」と思って観ると、実際そうである。あらすじはいたって単純。でも考察できる材料はたくさんある。
出てくる登場人物のあいだで信頼関係がきちんとある感じがよかった。それは冒頭の「おれたちはレスキュー隊なんだよ」のセリフにまず表れる。マッドバーニッシュもバーニッシュの人たちの希望だったり、ゲーラとメイスもボスに託すシーンもいい。クレイも部下のビアルやヴァルカン大佐は最後までついてくる。
名前
名前がところどころでキーになっている。ガロの「エリスの妹じゃない、アイナはアイナだろ」や、リオは必ず名前(フルネーム)で呼んだりしている。ガロはリオに指摘されてたり、クレイがダンナ呼び嫌っているのを知って以降はちゃんと名前で呼ぶようになったり。属性の前にまず個人があって、それを尊重しようという気概だ。名乗りや名前が大きく表示される「お決まり」もそんな世界観を彩る。
変わらない行動原理
ガロもリオも最初から最後まで行動原理が変わらない。ガロは守りたいし、リオは燃やしたい。変わるのは対象の「広がり」だ。ガロはバーニッシュを守る、クレイも守る、地球も守ると規模がインフレしていく。リオはフォーサイト財団の施設のみ狙って燃やしてたが、怒り狂ったときは街を燃やし、最後はプロメアの声を聞いて地球を燃やす。
クレイはバーニッシュから街を守る表の顔を持ちつつも、自身こそがバーニッシュであることへの嫌悪感を抱えたキャラクターである。(参考:クレイ役堺雅人インタビュー 要:ぴあのアプリ)
だから慕ってくるガロが鬱陶しい。でも本当に悪役ならば真相を明かす際に殺せたはずだ。クレイの心のどこかで、どこまでもまっすぐなガロに対するうらやましさがあった。そんな愛憎なのだと思う。
クレイの行動原理は自己嫌悪の解消だ。そうだとすればパルナッソス計画の「人類の救済」と「プロメアの破壊」ふたつの目的が見えてくる。前者は人の役に立つことで自分の価値を高めて埋め合わせる。いわゆるメサイアコンプレックス。後者が自己嫌悪の原因である自身のバーニッシュ部分の取り除くこと。ただし、他人に役に立つことで得られるのは自己効力感だけで、自己嫌悪は直らないどころか、立場がよくなるにつれて、ますますバーニッシュであることを明かせなくなっていく。ガロとリオによって人類の救済とバーニッシュの消滅どちらも達成してしまったので、自己嫌悪感だけ残った。だから「余計なことを」と最後に呟いたのだろう。
度量の広さと柔軟性
デウスエクスマキナの発見はたまたまであったが、結局は共闘できたほうが勝ち、目的を達成した。ガロの度量の広さと素直さと無謀さがあってこそ、リオもよく見聞きしなんだかんだできちんと受け止められるこそ、二人で共闘できた。そして、相容れなかったクレイとデウス博士が対比される。
「もう一度乗ろう、ガロデリオンに」でリオデガロンよりガロ好みのデザインになる。受け入れられることで発揮される力。こういう展開が熱い。
表現のメタファー
バーニッシュの炎は怒りや悲しみの感情の発露であって、抽象表現になってるのは炎そのものが「表現」のメタファーなんじゃないかと思う。
私には表現したいっていう情動、突発的な衝動がある。実際プロメアが新しい映像表現への挑戦的であったのに刺激されて創作意欲が沸いた。
また表現の自由を巡って現実では衝突があって、それも話に織り込んでるように思えた。表現の自由の前提となるJ.S.ミルの「危害原則」――他人に介入できるのは危害を与えることをしているときだけ――というものがある。バーニングレスキューが危害から守る存在であること、逆にバーニッシュは人命に危害を加えないことを信条にしてるのが危害原則にあたると思う。
作中でガロとリオが互いに力を合わせるわけだから、燃やす(表現する)のも(表現から)守るのもどちらも大事ということである。
とりとめのない話
- 冒頭のシーンで四角形のなかに三角形が収まる形になっている。四角形は規律や力、三角形は危険や興奮を表す。体制側が四角で、バーニッシュ側が三角で表現される。
- バーニッシュが出す炎はシアン、マゼンタ、イエローと色相環のちょうど三角形(トライアド)になる。黒い衣装含めると印刷に使うCMYKでもある。
- パルナッソス計画。ギリシャ神話の大洪水伝説で、ゼウスが起こした大洪水をプロメテウスは息子のデウカリオンに警告していた。デウカリオンは方舟を作って難を逃れ、方舟はパルナッソス山に漂着した話。
- 言われないと全くわからない、CVケンドーコバヤシ。キャラに合わせたらしくプロ意識高い
- ルチアの新谷真弓さんのちょっとダミ声っぽいがクセになる。蛇崩乃音だ
- 劇団☆新感線の、松山ケンイチは『髑髏城の七人』の捨之助、『蛮幽鬼』では堺雅人がサジ、早乙女太一が刀衣。新感線は大体面白いけど『蛮幽鬼』は傑作なのでオススメ。
名前の元ネタ考察
- ガロ・ティモス(Galo Thymos) Galo=古ポルトガル語の雄鶏。ティモスは古代ギリシア語で魂(soul, heart)
- アイナ・アルデビット(Aina Ardebit)ラテン語ardeoの変化形 英語でardor=熱情・熱心。アイナはアテナ。都市の守護神
- バリス・トラス(Varys Truss) 英語Truss=補強する
- レミー・プグーナ (Remi Puguna) ラテン語pugna=戦闘
- ルチア・フェックス (Lucia Fex) Luciaはラテン語Lux=光。Fexはたぶんラテン語faexの語形変化で「くず」。
- イグニス・エクス (Ignis Ex) イグニスはラテン語の炎。exは外側
- ヴィニー (Vinny) ヴィンセントの短縮形。ラテン語vincere=征服する。Victoryの語源
- エリス・アルデビット(Heris Ardebit)エリスは不和の女神。
- リオ・フォーティア (Lio Fotia) Lioは太陽神ヘリオス(Hēlios)。ヘリオスの聖鳥は雄鶏。Fotiaはギリシャ語の火。
- ゲーラ (gueira) ラテン語guerra=戦闘
- メイス (Meis) これだけ不明。ギリシャのメイス(Meis)島?青の洞窟がある。
- デウス・プロテス (Deus Prometh) ラテン語Deus=男神、Promethは人間に火を与えた神プロメテウスPromētheús
- クレイ・フォーサイト (Kray Foresight) Kray=クレイストス、力の神。Foresight=先見の明、プロメテウス=”pro”(先に、前に)+”mētheus”(考える者)=先見の明で同じ意味。
- ビアル・コロッサス (Biar Colossus) ロードス島の巨像。Bia=ビアー 力の女神。
- ヴァルカン・ヘイストス(Vulcan Haestus) ヴァルカンはギリシャ神話の火の神ウゥルカヌス(ヘパイストス)の英語読み。 ラテン語aestus=炎
プロメテウスの火の話:ゼウスが人に火を与えることを拒んでいたところ、プロメテウスが火を盗んで人に与えた。怒ったゼウスがコーカサス山脈に縛り付けて、オオワシに内臓をついばませた。このときビアー・クレイストス・ヘパイストスが協力してプロメテウスを縛ったとされる。リオを火山縛り付けたのはこのプロメテウスを縛る話の再現。
(2024/11/21 02:19:38時点 Amazon調べ-詳細)