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小林賢太郎氏の解任騒動の記録

ふきだし

五輪開閉会式ディレクターの小林賢太郎氏の解任騒動についての文脈整理のため、記録をつけておく。ツイッターだと流れてしまうのもある。

何かしらの問題を起きた場合、何をどうすれば今後のためになるのかという問いかけに問題を設定し直すのがいいと私は考える。犯人探し、レッテル貼り、断罪を避け、バイアスがかかってないか自問し、なるべく冷静に背景や文脈を検証したい。

私のツイート

以下は上記のツイートのツリー内容をまとめた文章。文字数の関係で省いた部分や間違った部分は訂正している。実質的に記事の要約になっている。

ラーメンズは爆笑オンエアバトル以降のファンでそれ以前の98年のあのコントは知らなかった。直後にツッコミが入るとはいえ、子供向け番組には内容が重すぎる文脈で「ユダヤ人惨殺」を用いる必然性がない。不謹慎な言葉で笑いを取る「軽率さ」があって、「ホロコースト」のブラックユーモアとしては成立してないと思う。

20年以上前の初期のラーメンズがウケようと迷走して中二病っぽい「軽率さ」に頼ってしまったこと、またそういう芸風を徐々に改めて誰も傷つけない笑いを追求していったこと、過去のコント動画を無料公開して全額復興支援寄付してること、ブラックユーモアの文脈でより過激なモンティ・パイソンやローワン・アトキンソン(Mr.ビーン)がロンドンオリンピックの式典に出てること、はこのコントの「軽率さ」をなかったにできる話ではない。とはいえ、作品がどういう文脈に置かれたものかも無視できない。非難されるのは妥当だが、そういう文脈の上で語られるべきだと思う。 

しかし、公人たる防衛省副大臣がホロコーストの記録保存を行うサイモン・ウィーゼンタール・センターに必要だった手続きを飛ばして直接連絡を入れ、しかも相当誤った形で伝わって(wiesenthal.com/about/news/swc)いる。解任自体は妥当でも、こういうプロセスを飛ばした形で解任になったのは本当によくない。

こういったキャンセルカルチャーになぜ批判があるかというと手続きの正当なプロセスを踏まずにやめ辞めさせることが常態化してしまうと、場当たり的な対応で流され、内容をきちんと検証できず、今後の対策がうやむやになってしまう。これではただ政治が混乱するだけで本人も関係者も文化にとっても不幸になるだけ。

手続き上の正当性をないがしろにされる世界では、いくらでも難癖や理由つけられるのだから、法を超えて権力を乱用できてしまう。過去に国/政府批判する発言をしていたので〇〇委員会にふさわしくないのようなこともアリになる(たとえば日本学術会議の件もある)。こういった形で仕事を奪われることを他人事だと思わないほうがいいです。きちんと法に基づいた手続きや調査を経て、文化的に未熟だった点も含めて、真正面から取り組まれることを願います。

記録

2018/7 野村萬斎氏が五輪開閉会式の総合統括に就任。

2019/12/09 小林賢太郎氏のパラリンピック閉会式の演出担当が発表される。

2020/12/23 大会の簡素化を理由に野村萬斎氏、椎名林檎氏、山崎貴氏らのチームが解散。後任は電通出身の佐々木宏氏が就任。

2021/03/17 佐々木氏が開会式に出演予定だった渡辺直美氏の容姿を侮辱する案を出していたことが発覚。翌3/18に佐々木氏辞任。

2021/07/14 小林賢太郎氏のショーディレクター就任が発表がされる。

2021/07/20 作曲担当の小山田圭吾氏が過去のいじめ問題で辞任を発表

07/21GEINOUの記事にホロコーストいじりの過去という内容の記事が出る。しかし、ほとんど拡散されず。

07/21 22:45 実話BUNKAタブー編集部の以下のツイートが広まる。

07/22 1:11 Tomoという匿名アカウントの方が防衛省副大臣に相談ツイート

07/22 2:17 防衛省副大臣の中山泰秀氏がサイモン・ヴィーゼンタール・センター(SWC)に連絡を入れた旨を返信

07/22 3:56 SWCが声明を発表。小山田氏の障害者イジメの件とごちゃまぜになっている。

07/22 4:12、Yahoo!ニュースの高橋浩祐氏の記事で更に拡散される。

07/22 12:00頃 五輪組織委員会が小林賢太郎氏の解任を発表

07/22 15:00頃 小池百合子東京都知事が「条例に反する」とコメントを出す。JOC橋本会長からの今朝連絡あったとのこと

07/22 17:00頃 菅総理大臣が「言語道断」とコメント。

07/22 22:00頃 オリンピック開会式は小林氏解任後も予定通りに実施と発表

7/24 SWCが障害者いじめの文言をサイレント削除。7/21時点のアーカイブ、7/24時点のアーカイブ

海外での反応

当該のコントについての解説

小林賢太郎氏は元芸人で、片桐仁氏とのコンビでラーメンズを結成したのは1996年。当該のコントは『ネタde笑辞典』というVHS(テレビ未放送)に収録された『できるかな』。小林賢太郎氏は芸歴2年目、25歳のときである。

『できるかな』というNHKの子ども向け教育番組のパロディだ。本家『できるかな』は身近なものを工作して、それでごっこ遊びをするというもの。

片桐扮するゴン太くんと小林扮するノッポさんの自宅での打ち合わせが舞台である。このコントのメインテーマは子ども向け番組なのに子供向けらしからぬ内容であることと、きぐるみキャラとお兄さんキャラの恋の2つだと思う。

当該の場面は、プロデューサーのトダさんから遊んで学べるものを提案されて、紙を切り取って文字で構成された野球場を作るのを思いつく。

ゴン太「ちょっとやってみようか。ちょうどこういう人の形に切った紙が大量にあるから」
ノッポ「あーほんと」
ノッポ「あー! あのユダヤ人大量惨殺ごっこやろうって言ったときのな」
ゴン太「そうそうそう。トダさん怒ってたなぁー」
ゴン太「放送できるか! ってなー」

「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」は子どもが遊んで学ぶ内容としては重すぎる。トダさんが言う学んで遊べるっていうのは本家『できるかな』が想定するもっと身近な例であって、歴史の重い事実ではないというギャップを狙った笑いである。

子供番組で扱うには題材が重すぎるというのが共有されていないと起きない笑いなので、ここにホロコーストの事実を否定したり、反ユダヤ的な思想が含まれているわけではない。

「題材が重すぎる」というのが「非日常の中の日常」というズレた感覚を当たり前のようにしてる人物と状況説明セリフなしに展開するコントを得意とするラーメンズらしいが、それがかえって分かりにくくなってしまっている。当初は私も勘違いしていた。ツッコミが「子ども向けにしては重すぎるだろう」というニュアンスなら誤解が少なかったはずだ。

しかし、「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」という言葉の強さでウケ狙ったという「軽薄さ」があったことは本人のコメントでも伺える。

この子供向け番組にしては内容が重すぎるという場面で「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」という言葉を用いる必然性があまりなくて、ホロコーストブラックユーモアとしては成立していないと私は考える。

ホロコーストをブラックユーモアとして用いること自体はモンティ・パイソンやサウスパークでの例もあって、必ずしもタブーとは言えない。

ホロコーストのブラックユーモアが成立している例としては他に『帰ってきたヒトラー』が挙げられる。現代にタイムスリップしたヒトラーが、そっくりさん芸人として笑いの対象になっていたが次第にその過激ぶりが頭角を現し笑えない事態になる。ユダヤ人虐殺のことも出てくるが過激な物言いがウケてしまう現代の風刺が含まれている。

小林賢太郎氏について

小林賢太郎氏と片桐仁氏は多摩美術大学版画科の同級生同士で、在学中に「オチケン」(落語研究会)を設立してお笑いにのめり込む。前述の通り1996年にラーメンズを結成。1999年スタートのNHKのお笑い番組「爆笑オンエアバトル」でブレイク。

テレビのひな壇芸(相方の片桐はまれに出る)や若手芸人がよくやる体を張った芸やレポートはやらず、単独公演をメインに活動していた。

以下は2007年の発売の雑誌『広告批評』での対談コメント。ラーメンズ初期の頃は実験的な尖った要素やブラックジョークも得意としてたが、後期になるにつれ言葉遊びやパントマイムなどのアーティスティックな要素が強くなる。

 

2009年『TOWER』の公演を最後にコンビでの活動は実質休止状態となっていた。小林賢太郎氏は、その後は自身が演出を手掛けるソロライブの『POTSUNEN』やコント公演の『カジャラ』などの舞台で活躍する。

2017年1月1日にラーメンズ、コント映像100本をYouTubeで公開 広告収入で復興支援を発表。

2020年11月16日に、小林氏が足の怪我を理由にパフォーマーを引退し、ラーメンズは事実上の解散となった。

問題点

・ホロコーストは歴史上でも非常に重い出来事なので、これをブラックユーモアとして扱うならばそれ相応の批評性や必然性が必要である。あのコントはその点を満たしておらず、批判はあってしかるべき。

・軽率な部分はあったものの、作中では子ども向け番組の遊んで学べる題材にしては重すぎるという扱いで、決してホロコーストの否定や反ユダヤ的思想があったわけではない点は考慮されたほうがいい。国内外問わず多くに誤解されていると思う。

・作品の評価は変わらずとも、20年以上前のキャリア初期の作品であり、次第に傷つけない作風を変えていったことももっと周知されたほうがいい。

・そのうえで国際問題に発展した以上、オリンピックの理念を顧みて解任は妥当であった。

・しかし、防衛省副大臣という強い立場にある人物が具体的な検証があった形跡も見られずに権利団体に報告した。本来は管理責任がある組織委員会にまずは相談すべきであり、こういった正規のプロセスを踏まずに問題が大きくなってしまったことには相当の問題がある。

・開会式前日とはいえ、本来であれば組織委員会内での丁寧な調査、対話、対応が必要であったはずだ。

・解任が開会式前日で、開会式の変更はなく、名前だけ剥奪される形になってしまった。

・キャンセルカルチャーは倫理観の向上や、権力で握りつぶされない告発になるなど良い側面もある一方で、SNS上で広まると法の手続きを踏まない分、文脈が無視されたまま断罪され歯止めが聞かなくなってしまうこともある。また、法の時効がないため、どこまでさかのぼって追求するかも各々の判断になってしまう。

・この件とは別に、西村康稔大臣が国税庁を通して酒類販売店や金融機関に対して、アルコール提供を自粛しない飲食店との取り引きを差し控えるよう求めたことが問題になった。これも法的な手続きを無視した例だ。詳しくは次の記事参照。ドイツで政策を見て痛感…日本政府が「法治主義」を軽視しすぎという大問題。公権力のガバナンスが崩れてきている。

・炎上したらスケープゴートのクビを切って対応しない事なかれ主義+文脈無視の断罪的なキャンセルカルチャー+公権力の法的な正当な手続きの軽視の3つが合わさった最悪のケースであった。

・これは小林賢太郎氏以外でも発生しえた。人間は完璧ではない以上、今後も発生するだろう。これと似たような形で仕事が奪われる可能があるということだ。決して他人事ではない。こういう事態があったという記録を残しておくことが今後の対策に役に立つと思って記しておく。

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