映画

『パターソン』淡々とした日常の中の排他性のない豊かな世界

 

しがないバスの運転手で毎日詩を書き留めることが趣味のパターソンの一週間を描いた作品だ。バスジャックが起こるわけでも激しいアクションがあるわけでもない。

しかし、毎日同じようで違う。何にもない日もあれば、ちょっとした事件もある。

舞台はニュージャージー州のパターソン。と聞くと中々イメージしづらいが、ニューヨーク州のすぐ南にあるところだ。

早くから工業化が進んで移民が多く住んでいる。しかし、工場の海外移転や郊外のショッピングモールで空洞化の進んだ貧しく寂れた街だ。

バス運転手のパターソンも金銭面では豊かとはいえない。しかし、愛する妻がいて、愛犬がいて、散歩途中の行きつけのバーでの一杯、あとは詩とマッチと滝があれば充実した生活なのだ。

エンタメ度は低いので人を選ぶ作品だが、好きな人にはこの静寂で温かい作品を愛おしく感じるだろう。

創作する人や、淡々とした日常が好きな人にはおすすめできる。

妙に気取った感じもなく、説教臭くもなく、内省的でもなく、排他的でないところがいい。

以降はネタバレ

パターソン

監督 ジム・ジャームッシュ

主演 アダム・ドライバー

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日常の芸術

作中にも出てくる、パターソン出身で医者をしながら詩を書いたウィリアム・C・ウィリアムズは「冷蔵庫にあったすももをこっそり食べた」という題材ですら豊かに情景を描き詩になりうることを証明してみせた。現代詩に多大な功績を残した彼のあとを追うかのように、パターソンという街から多数の詩人を輩出したし、憧れて来る人もいるだろう。

コインランドリーでリリックを試行錯誤するラッパーのあんちゃん、帰り道で会った詩を書く少女、そしてパターソンと受け継がれている。日常のなかに何でも芸術は転がっている。

もう日常のなかに芸術を謳歌するするのがパターソンの妻ラウラだ。控えめなパターソンと対照的に奔放で夢見がちで、独特な美的センスで部屋を飾りたてたり、突発的にギターを欲しがったり、創作でマズイパイを作ったりする。

パターソンは文句を言わないし、バーのマスターや同僚に愚痴ったりするわけでもない。ラウラもまた、パターソンの詩作を否定したり邪魔したりしない。

飾られた写真から退役軍人であることが分かるパターソンと、おそらくイラク出身であるラウラが同じ軒下で自由に創作し謳歌している。お互いに愛も尊重がある。イラク戦争で、もしかしたら刺し違えていたかもしれない。単に仲睦まじい暮らし以上の尊さを感じられる。

内と外の世界

パターソンはめったに外に向けて感情やら何やら出すようなタイプではないが、内向きに閉じた男というとそうではない。外との繋がりが彼の豊かな内面を作る。

自分の外側にある、独創的な妻、グラスの氷、滝の風景、なんてことはない日常会話、そういう中から詩が生まれるし、豊かさが生まれる。

まさしくウィリアムズの「日常ありふれたことやなんでも」詩の題材にできるというのを体現している。内面に閉じすぎて現実との繋がりを断ってしまうことはない。

移民の町で違う人種や考えに慣れたパターソンが、詩という手段をもって排他せずゆるく繋がっている。詩に限らずに、散文でも絵でも音楽でもゲームでも表現方法はなんでもいい。現代社会が抱える多様性受容と排他性の問題に温かさを与えてくれるようだ。

メッセージ性が強すぎて刺さることもなく作品全体を通してぼんやりとつつまれる感じも粋だ。

淡々とした描写の中から感じとって書かれる感想も多様で豊かなものだと思う。
ぜひあなたの言葉で綴ってほしい。

パターソンみたいに人に発表しなくともよいので…