いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房)はライフハック本ぽいけども、貧困問題解決にページが割かれてる真面目な本である。原題はSCARCITY=「欠乏」だ。読んで面白かったので内容のメモを書く。
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お金が足りない人と時間が足りない人がいて、置かれる環境、個人の資質、性格、心持ち全然違うのに、最終的に足りないものに追われてますます足りなくなる結果については同じような状況に陥ってる。この状況は欠乏のマインドセットにとらわれているのが原因ではないかと問いをたてる。
そしてその欠乏を行動経済学と心理学の知見から明らかにする。
欠乏
時間がねぇ、お金もねぇ、車もそれほど…となると無意識化にその「足りないもの」に頭を占拠される。
空腹時に映画を見て、食べてるシーンばかり気になってしまうとか、食べ物の単語に強く速く反応するとか。
足りないものに占拠されると他の一切が入ってこなくなる。これをトンネルに入ると景色が見えなくなることからトンネリングと命名された。
トンネリング
トンネリングのメリットはわかりやすく、足りないものに対して高い集中力が保てる。例えば締め切りがギリギリになってトンネリングに入り、集中することで効率があがること。
つまり与えられた期限が短いほど効率が良くなる。しかし、人間はマルチタスクは向いてなくて、処理能力のリソースを1点に集中させることは他のことすべての処理能力が落ちる。
目の前の課題に関してのみしか効果が無いので、視野狭窄を起こして、長期的なメリットがごっそり抜け落ちる。結果的に火の車になる。
ジャグリング
お金の欠乏にとらわれてる貧困層のほうがお金に関して集中してるといえる。だから、お金に関しては経済学で言うホモ・エコノミクス=合理的経済人のように振る舞う。
しかし、目の前のとらわれてることにしか関心を示さないので取っては投げ取っては投げでスパイラルにハマる。これをジャグリングと呼ぶ。
スラック(slack)
スラックとは意図してないゆとりのことだ。
たとえば、ゆとりのある大きいスーツケースと小さいスーツケースがあるとする。小さいほうはトレードオフ(二者択一)が発生して十分吟味することになる。代わりに処理能力の負荷が高い。大きいほうだと持っていくものの選別や詰め方はテキトーになる。代わりに処理能力の負荷が少ない。
忙しいときにしか稼働しないアシスタントがいるとする。忙しくないときは一見すると無駄だ。だから解雇する。すると、忙しいときに回らなくなり、全体に波及して崩壊する。この場合のアシスタントがスラックである。
スラックは一見して非効率なので得てして軽視されるが、とても重要なのだ。欠乏の問題はスラックを確保しておくというのが解決策のひとつ。
解決策
一歩引いて見るために欠乏の性質を知っておく。意識を変えるのは難しいので、環境を変える。
手術室が2つの病院では、急患が入ると手術室を開ける作業に忙しくなる。そうなると残業も多くなり、目の前の仕事に手一杯になりがちだ。
これは手術室が足りないのではなく、予め急患用に一室開けておくことで解決できた。急患用手術室は一見非効率だけどこれがスラックになってる。急患が来ることを想定して準備しておけば手間取らない。スラックは軽視されがちだ。
トレードオフが発生すると欠乏状態の物を優先してしまうので、そもそも選択させない環境づくりが必要だ。トンネリングから抜けるんじゃなくて、無理やりトンネルの中にねじ込む。
リマインダの効用
当たり前すぎて軽視しがちだが、バカに出来ない。パーソナルトレーナー付けてリマインダ送ってもらうようにするとサボらなくなる。
自動化
選択でいちいち負荷がかからない。たとえば、買い物したときに端数の切り捨てて自動的に貯蓄用の口座に入れる仕組み。料金支払いの自動化など。
逆に自動化するとトンネルの外に置かれてしまうので、見直してみるために自動化から脱却する手もある。たとえば、保険料の見直しなど。