マンガ

『まちカドまぞく』日常ほのぼの系ギャグ骨太マッチョな作品

まちカドまぞく

『まちカドまぞく』は日常ほのぼの系ギャグマンガ・アニメである。頭空っぽで観ても癒やされるし、小ネタの連打に笑わせられる。そして意外にも緻密で骨太なストーリー、伏線や展開の気になる内容、なにより根底にあふれる優しさが魅力である。

あらすじやビジュアル観ても正直あんまり興味持てなかったけど、ツイッタートリタロウフレンズの推薦で何気なくアニメを観始めたらハマって原作も読みだした。アニメ2期が見たいのでみんなも見よう。

この記事の前半はネタバレ無しの内容紹介、中盤は1期アニメのネタバレあり感想、後半はマンガ5巻までのネタバレあり感想と小ネタで構成している。

あらすじ

ポンコツ女子高生・吉田優子が闇の一族の力に目覚め、打倒魔法少女を目指すことに。宿敵のローテンション物理系魔法少女・千代田桃には全く勝てそうもなく、借りを作ってばかりで丸め込まれていく…

ほのぼのとした女子学生の日常を描く作品が多い「まんがタイムきらら」と派生雑誌に掲載されている「きらら系」で、『けいおん!』や『ゆるキャン△』もこの系譜。きらら系は男性向け作品が多いが、萌え・エロ要素がほぼない『まちカドまぞく』は全人類が読んだら平和になるので老若男女おすすめする。

人間の素質にとって重要なことは何か専門家の意見を集めてみると「良心」ということが多い。実際そうだと思う。優しさは時に暴走するので賢さが必要なのだが、それは他人の手を借りればいいだけのこと。

『まちカドまぞく』はそういう優しさをド直球に描く。当たり前なことだから陳腐で安っぽくなりやすいが、これは真正面から向き合って動機や原動力や物語のコアとしてしっかり埋め込んであるのだ。

主人公の優子は力もなければ、才能もない。メンタルも弱い。お金もない。でも邪気もない。そして、当たり前すぎて軽視されがちな、敬語ができる、挨拶できる、感謝できる、借りを返せる、不正はしない、困ってる人を助けられるみたいなことは全部できる。むしろこっちのほうが本来は大事なんではないかと思わされる。だからこそ「頑張れ優子」と健気な主人公をつい応援したくなる。

アニメは原作をうまく補完しつつ、忠実かつ丁寧に作ってある。日常ギャグとは思えないぐらいセリフ量が多く、原作が4コマなだけあって1シーンたびにオチがつくのでテンポの良い漫才みたいに見れる。パワーワードがポンポン出てくるけど、ドギツさはなくて安心して観られるのもよいところ。

配信は公式ホームページの配信一覧を確認してほしい。放送が終わった今は以下のアマゾンプライムビデオが利用しやすくてオススメ。

 

原作の漫画は雑に紹介すると、ほのぼのなわりに情報量が多い4コマ。4コマごとにオチがついてるだけでストーリーは連続している。1巻ごとにストーリーの終着点があって感動できるので漫画ならではの楽しみがある。じっくり読める分、散りばめられた伏線や考察が楽しい。アニメが3巻の冒頭までで、原作は5巻まで出ている。続きが気になったら原作を読もう。とりあえず3巻は読もう。

以降はアニメのネタバレあり感想

アニメの感想

アニメの方を最初に観たので、あとから原作読んでその忠実さに驚いた。そして、原作読んでからまたアニメを見返すと、ギャグのテンポ感や謎の効果音、音楽もよくできていることに気づく。『デ・ジ・キャラット』『魁!! クロマティ高校』『斉木楠雄のΨ難』などのコメディを得意とするベテラン監督の桜井弘明と知って妙に納得した。

加えてアニメならではの良さが生かされている。たとえば、桃の高速変身バンクは原作には描かれてなくてアニメだけで見られる。みかんが「ちょー可愛い」と評した昔の変身を今も変わらずやってるんだけど、高速すぎて周りからは見えてないというギャグにもなってる。メタ子の「時が来た」に声がつくインパクトの強さなども楽しい。1話では日常風景パートが追加され、この町を守りたいんだと想えて感慨深くなる。

サブキャラ含めてそれぞれキャラが立ってて、どのキャラが欠けても物語が動かなくなってしまう。そもそも発端のご先祖、命の恩人で宿敵の桃、貴重な過去桃情報源のみかん、仕事斡旋してくれたり軽さがありがたい杏里、魔術系の支援に役に立つ小倉、貧乏でも明るく楽しく生きてる家族。あと先生、近所の犬と飼い主、メタ子。そして、ポンコツなんだけど言動や行動指針がまっとうなシャミ子。行動原理は全員違うんだけど、間接的であれベクトルがシャミ子を応援する形になっている。

細かいところがよく出来てて、シャミ子の敬語喋りは明言されてないけどお母さんの影響を感じられたり、11話でお父さんがみかん箱に封印されてることが発覚して、桃とシャミ子は麦茶をみかん箱に置かなくなったり細かい配慮が行き届いている。気にしないお母さんはそのまま麦茶置いてるけども。そういう明るいところも事態のヘビーさを感じさせなくていい。

まちカドまぞくのトレーニングメニュー
話数でトレーニングメニューが変わる芸の細かさ

 

アニメでの物語の主軸はシャミ子が成長し自分で目標を見つける話でもある。

最初はご先祖と母に言われて、魔法少女打倒を掲げるが、4話のウィンナー試食のバイトの際に「魔法少女を倒して何がしたいんでしょう」と疑問を抱く。6話で桃の強力な圧で町を守ることを手伝うことになる。11話で吉田家の真相が分かって、12話で封印の解除、お父さん、桃といること、恩人の桜を見つけること全部諦めないことを宣言する。一人で戦い抜けないから一緒に戦ってほしいと言う。

一方桃のほうは始めから町を守って姉を見つけるという目標がある。3話の「みんなが仲良くなりますようにー!」のあと、保護監視対象のまぞくから心根の優しい優子本人へと興味が変わる。6話で「自分のダメなところを人にバレることを怖がっていたら前に進めない」とシャミ子に言われてから7話で過去の自分と向き合ったり、ちょっとずつ表情が出てきたり、オープンになってくる。12話の最後でご先祖にパーソナルカラーにあってないと言われて黒い服着てくる。

最後は見えない形でシャミ子や桃や町を守ってきた、千代田桜は咲き誇る桜で表現され、ヨシュアのナレーションで締める。頑張れ優子、誰よりも優しく強くなるのだ」ここだけ優子呼びなのもグッとくる。

まだ物語の目標が定まった序章でしかないのだけど、原作へのリスペクトが溢れていて素晴らしい1期だった。2期も楽しみだ。原作では1期ED後も楽しくて、3巻も素晴らしいのでぜひ読もう。

以降は漫画5巻までのネタバレあり感想

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漫画5巻までの感想・考察

漫画5巻まで読んでもやっぱり終始ギャグ漫画なのだけど、ストーリーの構成力と密度が末恐ろしい…

1,2巻、アニメ1期の段階では過去含め善意で回ってる優しい世界が描かれる。3巻以降ただ単に優しければいいというだけではない部分にも触れるのがこの漫画の好きなところだ。

優しい世界なんだけど、それを維持するための共生は簡単ではない。

秩序維持システムとしての光の巫女と魔族の対立はすでに形骸化してしまってる。共存共栄しようと思うと、維持には力がいるしコストがかかる。悪意がなくともトラブルになるリコくんやウガルルみたいなまぞくが出てくることでその説得力が増す。力や介入の危険性の認識したり、衝突時の落とし所を探ったり、周りと協力するだとかも重要になってくる。

これは別に現実にも通用する話ではある。ほんとにギャグ漫画なのか…

それも提示の仕方がうまくて、みかん→リコ→ウガルル→朱紅玉(とリコの修羅場)と、シャミ子の世界の広まりとともに段階踏んで対処が難しいパターンになってくる。

最初はそそっかしくて善意が裏目にでるみかんだが、そのおかげで物語が進むし、持ち前の人当たりよさで気ならないのがみかんのよいところである(柑橘テロ以外)。みかんのトラブルは呪いの面も多くて、それは4巻で解消されたんだけど、ウガルルとして外部化されただけとも言える。善意が裏目に出るのはウガルルにも継承されてる。無知で力のあるウガルルをどう役割を与えるかに課題がシフトしていく。

悪気はないけど空気読めてなくて惑わしたりしてしまうリコくんが3巻から出てくるとグッと深みが出てくる。リコはわがままと善意、素直さが一体になってて、長期的に得する行動が取れない。あまり我を出さず回りくどい桃とは対照的で桃が一方的にイライラしてしまう。朱紅玉との確執も率直すぎるのが災いする。それをシャミ子は否定せずに仲裁したり、方向を修正したりする力がある。能力や小倉の尽力もあるんだけど、だから修羅場を解決できた。

修羅場の解決を桃との関係の変化も絡めてあって面白い。ウガルルは共同だったんだけど、あのときは桃は気絶中だった。そもそも夢のときは単独になることが多いのにシャミ子は桃がいないことに心細がっていた。

桃のほうは3巻終盤の時点で、姉の探索という目標を失い、シャミ子が笑顔になれるだけの街角を守ることにシフトする。義姉妹の契しちゃうからこれはもう百合というよりはロマンシス(ブロマンスの女性版)だ。桃の目標はシャミ子に依存してるからほぼ達成してるようなもの。このあとのデレっぷり、施す側から施される側になるのはご覧の通り。そうなっちゃうと物語上の桃の意味はあまりない。だけど、ここを5巻終盤でシャミ子が自身の力の強さに葛藤しだしたのを、宿敵として抑止力になることで諭す。見事すぎる…

izm110
IZM110。伊藤いづも先生の遊び心

 

5巻になってもまだまだわからないことだらけでこれからの展開が気になる。高台公園の桜の枯れ木、目的不明の小倉、6年前の世界を救ったこと、桜失踪以外での桃の心の闇の原因、桜がなんで共生の道を選んだとか…

どうやって着地するのかまでずっと追いかけたい。

以下の伊藤いづも先生のインタビューも面白いのでぜひ。なんで4コマなのか、情報量が多いのかなどの疑問に答えてくれている。

【インタビュー】『まちカドまぞく』伊藤いづも「子どものころの自分を満足させられるマンガ家になりたい」

その他細かい小ネタ

・2巻の最後、いつか宿敵に打ち克ち立派な闇の支配者になるのだ!!が「勝つ=負かす」じゃなくて「克つ=乗り越える」なのがよき。これは漫画ならでは

・ネタは旧約聖書がベースで、ヨシュアはモーセの後継者。横文字っぽいアの付くなんとかの杖はアロンの杖。アロンはモーセの兄で、モーセが海を割ったのもこれ。メタトロンは36万5千の目を持つ天使。他のナビゲーターのミカエルやジキエルも天使。リリスはまんまメソポタミアの夢魔。佐田杏里=サタン、小倉しおり=グシオンとどちらも悪魔

・2巻P.87で桃に接近して心を開かせる方法が「おいしいお弁当を毎日作って渡す」はご先祖にはバカにされるが、実際にはこれでデレデレになってる。夢の中では弁当でドアを開けさせている。これが暗示になってるのか、後のやりたいことが「シャミ子の本気の弁当を外で食べたい」→落ち着いてシャミ子の弁当が味わえなくて闇堕ち。そして「シャミ子?今日のご飯何?」完全に胃袋掴まれてる…

・個人的に好きなワード「浮かれフルーツポンチ」「落とし穴の機会均等」

・個人的に好きなコマ4巻p.64「貴方 シャミ子に米を炊かせてるの?」5巻p.73「シャミ子?今日のご飯何?」5巻p.84「ぜーんぶ存じ上げております!!」