VRChatワールド探索部のアドベントカレンダー17日担当のtktk(てけてけ)です。
実は2018年頃からVRChatはやっていて、入り浸るようになったのはここ1年ほどだ。
私は10年ぐらい趣味でゲームmod作る活動している。ユーザー生成コンテンツ(UGC)関連で言ったら中学生からやってるので、もうなんかライフワークみたいになってきた。主体的な活動とそこに垣間見える人の痕跡が好きだ。ユーザーが作る空間が毎日アップロードされ、オープンワールドゲームの探索も好きな私がVRChatにハマられずにはいられなかった。
VRChatワールド探索部(ワ探)に参加したのは今年の3月からだ。VRChatワールド探索部の読み応えのある記事が好きで、それをたまたま会ったタカオミ部長に伝えたら、流れで入ることになった。
ワ探の他にもワールド巡りはやっていて、ゲーム仲間とやってる月一回の#地図のない世界散歩では、たまに自分が行くワールドを選んでいる。テーマを決めて、どういう構成にしようか考えるのは、さながらワールドジョッキー(WJ)だ。
いろんな人と巡るとそれぞれ着眼点が違くて面白い。一人で気ままに巡るのも楽しい。
せっかくの機会なので今年巡ったワールドについて書く。優劣を決めたいわけじゃない。ただ個人的に書きたいから書く。何かを選ぶは何かを選ばないが発生してしまうけれども、勢いで11個ほど選んだ。
ORGANISM
by Dr.Morro
https://vrchat.com/home/world/wrld_de53549a-20cf-4c6f-abea-dcda197e1e16
ソ連・ロシアを舞台のモチーフにシュールレアリスムやリミナルスペースのようなどことなく不穏感のあるワールドである。訪れて思ったのはこの大作を作った人はいったいどんな人なんだろうなだった。
思索、瞑想、チルアウト……海外VRChatアーティストたちが表現した夢の世界を訪ねて
上記のインタビュー記事で少しだけ人となりが垣間見える。ソビエト時代の話もされてるのである程度年齢を重ねた含蓄のある人という印象を持った。
この考察記事も面白かった。環境ストーリーテリングが秀逸で非常に考察がいのあるワールドなのだ。
キリル文字が読めて、ソ連関連の造詣が深い友人のeveningさんと考えながら回るのが楽しかった。
禁煙の看板が分かると近くの煙草の吸殻が溜まった缶を発見して、砂のように見えてたのは実は灰で、空間が肺のメタファー何じゃないかと考察したり。
エリアの区切りごとにある数字。1952、2002、2037。
Dr.Morroさんの他のワールドにMoscow Trip 1952と2002があるので、関連はありそうである。最初のエリアは年号がないが、カレンダーが2038年だった。ORGANISMの世界が2038年なんだと思う。
思いつくのは2038年問題(コンピューターの時刻計算の伝統的な実装が符号付き32ビット整数型で、2038年を迎えると値の上限を超えて誤作動する問題)でバグっちゃった世界で、問題が発生する前の最後エリアの2037年でシャットダウンすることで帰ってくる仕組みになってる。
とすると、1952年はプーチンの生まれ年あるいはスターリンの死去前年、2002年はプーチンの独裁体制が確立する前で、悪い事態をぎりぎり回避できたはずの手前に戻ってるというのも考えられそう。しかし、幻覚物質的な光る飲み物や大量のタバコ、退廃的な雰囲気から止めようにしても止めれないという諦観も感じられなくもない。単純にDr.Morroさんの生まれ年説もありそう。
これだけでひと記事書けそうなのでこのへんにしておく。
CUE [Archive]
by 0b4k3 / phi
https://vrchat.com/home/world/wrld_a1071eb7-e16c-4a52-bd6e-c0efdb1b5ea5
ことあるごとに「ゴーストクラブに行くといいよ」って周りに勧めている。良い体験が得られるので。しかし、いつも満員だし最近はあまり開かれないので中々に難しい。
そこでゴーストクラブ以外でゴーストクラブっぽい成分を味わえるのがCUE [Archive]だ。2022/01/22に渋谷PARCOにて開催された「NEWVIEW FEST 2021 OPENING PARTY」のXR Live CUEのアーカイブ作品である。0b4k3さんの楽曲とphiさんの演出/実装レベルが高いのでまずは行ってほしい。
VRでのライブパフォーマンスはVRの醍醐味のひとつだけれど、いつもやってるわけでも入れるわけでもないのでこうやってアーカイブとして存在してあると紹介しやすくてとても助かる。厳密にはCUE [Archive]はライブそのままを保存したものではなく再構成されたものではあるけども、それもDJが曲を切り貼りするようで面白い。
単管と蛍光灯と水と布で空間構成されてて、これら単体だと別にゴーストクラブの要素はほとんどない。しかし、紛れもなくゴーストクラブの雰囲気になっている。それも面白い点である。
VR側の考え方で基底現実側を侵食するのが面白いって思えたワールドでもある。あとエンジニアリング大事だよねとも。
それと、私がらくとあいすさんとゴーストクラブのGhost Weekで演奏する際に、どうやって曲を再構成するのか参考にするのもあって『ow (2022-edit)』が2022年で一番聴いた曲になった。今でもお出かけするときによく聴いてる。
Hedonism
https://vrchat.com/home/world/wrld_bc12ae9b-ffba-4d35-b7d8-83127649782a
初期のバイオハザード作品で採用されていたリモコン操作が大の苦手で、いきなり飛び出てくる「何か」も加えてトラウマレベル。しかし、他人のプレイ越しに壁伝いに不器用に走るさまを見るのは面白かった。
VRChatは基本的に一人称視点で、このワールドでは監視カメラ越しの三人称視点となり、あの苦手なリモコン操作を強いられる。しかし、VR(6Dof)の自動的知覚である没入感も身体感覚も操作も引き剥がされて、客観する立場に置かれることが不思議で面白い体験となっている。
当たり前であったものを当たり前でなくさせることで、異化(ostranenie)し、没入感とは何か、身体感覚とは何かについてより一層視座を広げてくれる。隠し部屋でいつもの視点に戻ってくる演出が素晴らしく、アレは一種の快感がある。
プロトタイプ版で一回行ったことがあって、その時はまだ隠し部屋の部分がなかったが、それから一週間程度で仕上げたsuzukiさんのすごさよ。
みんなと行ってぎこちない操作を眺めるもよし、一人で行ってミニマムな空間に浸るのもよしの楽しいワールドだ。
Room\20°
by yo-guruto
https://vrchat.com/home/world/wrld_23840d39-e115-4fcd-b9a9-d76987adb0a4
「ここは作業場なんです」物腰の柔らかい声で作者のよーぐるとさんが言う。
たしかに机が置いてあって、動画プレイヤーやペン、椅子、ミラー、ひと通り揃っている。
名前通り建物が20度傾いており、平衡感覚がおかしくなりそうなアンビバレンツな要素ときれいなライティングで落ち着いた居心地のよさが同居していて、とてもよーぐるとさんらしさが詰まった素敵な空間だ。
個人の作業場という極めて私的な領域が、誰でも利用可能なパブリックな作品として公開されているのがとても面白い状況だと思っている。
しかも、このワールドがMVに登場するのでさらに面白い。聖地巡礼できる作業場。
現実で自分の部屋や家を自分好みのインテリアにして友達に見せたりはあるかもしれないけど、不特定多数に公開してしかも利用可能な状態はない。私的な要素を持つワールドがたくさんあって公開されてるのでプライベートとパブリックという概念の捉え方が変わった。
何回か来てみると抜けれなかった箇所が抜けれるようになってたり、机後ろのもふもふが生き物になってたり、過程を楽しめるのもワールドの良いところ。
過程を楽しめるといえば、wata23さんのThe Sanctuary Forestもまだ公開前の段階で、はじめてwata23さんに会った場所だった。そこから製作途中の更新ごとに見に行き、公開時にワ探の人たちと行ったのはいい思い出。
片水面 ⁄ Kata-Minamo
by nemurigi
https://vrchat.com/home/world/wrld_88ee35e7-78e5-4a44-8e9e-72110750c72e
雨降る世界を歩いているといつの間にか反対側の水中の世界になっていて、水面を境に合わせ鏡のようになっている。
人のいる面が変わるシステム自体はsuzukiさんのEccentric Roomで見たけども、水面で挟んで反対側になるアイディアと幻想的な世界観にうまく落とし込めていて素敵。
この世界の構造を知ったときにあっ…てなった。
鳥居で反対側になる瞬間が観られるのも楽しい。もはや新海誠の世界じゃん。
反対側の人と特に違和感もなくふつうに会話できる。VRならではだね。
Booth House
by Pixiv
https://vrchat.com/home/world/wrld_5906f874-5bba-4f50-b1aa-4f376d1771f2
VRC用のアセットやアバターは大抵はBoothにある。これはBoothのアセットを集めて作った公式家ワールドだ。
虫眼鏡で見ることでそのアセットがどういうアセットかが見える。そして、アセット情報パネルをクリックすると、ブラウザでアセットのページが開かれる。表示されるパネルは過不足ない情報でまとまっており、サウンドや解除などのマイクロインタラクションも出来がいい。
虫眼鏡を使わなければ、アセットに関するUI類は一切ないので、そのままダラダラ過ごすおしゃれな空間のワールドとしても使える。
ステップフロアになっていて飽きない作り、現実では中々できない大胆な開口部の開放感や、いろんな作者のアセットを使いつつトンマナの統一感があって素晴らしい。
アセット置いたらワールドは作れるという手軽さのメッセージと、ワールド自体のクオリティが高いので作り手の意識の底上げも両立している。ワールド制作者は虫眼鏡システムで気になるアセットが調べられて便利、アセット制作者は販促にもなる。全方位に嬉しいワールドだ。
bit countryside
by imbilioo
https://vrchat.com/home/world/wrld_e171470e-5418-4c55-9293-ca746a5344e5
暖かい季節の風の強い日、草原と丘陵地が広がるアニメの風景みたいなワールド。ここでピクニックしたら最高だと思う。
静止画でも十分美しさは伝わると思うけども、ここは光と影のグラーデーションの移ろいが本当にきれいで、ずっといたくなる。
風が強くてよく動く風景と、オブジェクトの配置やディテールの省略具合のバランスが絶妙でノイズにならないし単調にもならない。LOD切り替えや遠景オブジェクトのポップアップは比較的目立たないようになってる。
私の固定ツイートはここで朝練してときのもの。あの頃よりうまくなったので録り直したい…
bit countrysideで朝練してきた様子。ピアノはらくとあいすさんのオケ #VRChat pic.twitter.com/LEsi2yxGvc
— tktk | てけてけ (@tktk_1) February 17, 2022
Namuanki
https://vrchat.com/home/world/wrld_f6e74d95-24b9-4373-8804-781d0c9e840f
by Kevin Mack
ベテランVR/VFXアーティストのケヴィンさんが4歳のときにいにしえの神々からの啓示を受けて作ったものだ。レインダンス映画祭のツアーでケヴィンさん直々に案内してもらう機会があって参加した。
もうバカでかいクリーチャー出てくるだけでテンションが上がる。
独創的な神話とHoudiniを駆使したアーティスティックな表現が唯一無二な世界観で圧倒される。見かけはあんまり似てないが少し「TES III Morrowind」を思い出した。
部分的にHoudiniのプロシージャル生成に任せて、自己の力だけではない偶発性に頼るのも超常の世界観にマッチした手法である。
ちなみにNamuankiの名前はどうやらシュメール神話がモチーフだと思う。シュメールにはナンム=海、アン=空、キ=地とそれぞれ神がいる。
Namuankiと同日に行ったLost Valley Lake Retreatは対照的に自然愛に溢れていて、ひたすら地道な手作業による丁寧なレベルデザインで良かった。レインダンス映画祭のツアーは全部良かった。
Gravity(非公開)
by Ozen
『Gravity』(邦題はゼログラビティ。何も分かっちゃいない邦題)という映画が好きで、おそらくはその映画をモチーフにしたワールド。とはいえ別に無重力ではなくあの映画にあった怖さはない。純粋に美しい宇宙空間のワールドで、落ち着きたいときに一人で行くにはぴったりだった。いつの間にか非公開になってた。かなしい。
LLLL – Silent Dawn Release Party(非公開)
電子音楽家LLLL:フォーエルのSilent Dawnリリース記念に作られた期間限定のオーディオ・ビジュアルパフォーマンスのワールド。今は行けません。
音楽に合わせて移動する円盤に乗って宇宙や見知らぬ惑星を旅する。
約40分ほどのライブのアーカイブで、グリッチやサイケデリックなエフェクトがかかったりして刺激的で、次に何が来るか楽しみな展開だったり、移動した先の惑星を少し探索できたり、飽きさせない楽しい体験だった。
VRChat World : LLLL – Silent Dawn Release Party
たのしかった!!!☺ pic.twitter.com/mM7KBqTzPj
— 三VRC (@Vj41LegoczJVOaN) May 28, 2022
ライブパフォーマンスと空間と演出のやり方はまだまだ模索甲斐があるな~と思わせてくれた。
RIPPLE(イベント時のみ)
by osirasekita
5月にMalobugさん主催のBug Collectiveで初めて来た。幅が狭く天井が高い縦長の会場に前面透過スクリーン、反射の映える白い壁と水面。ミニマムだ。すぐに好きな会場となった。
おばけさんと「デカい犬いいよね」という他愛もない話して、アフターDJを勧めたらやってくれた。イベントが終わって、ワールド作者のらしお(osirasekita)さんと控室で「Vulfpeckのマジソン・スクエア・ガーデンのライブはいいよね」と言ってその映像観てた。気づいたら朝だった。
後日。isagenさんとYuki Hataさんとらくとあいすさんと即興セッションやるからと言ってあずさんとアロメリカンダイナーに見に行った。即興があまりにも良かったので、いても立ってもいられずにその場で混ぜてもらった。
手応えを感じたのでちゃんと会場でイベントとしてやりたいねという話になった。ドローンの持続音がよく響きそうな天井が高いところ。DJもVJも入れたい。そうだRIPPLEがある!
全員が対等なプレイヤーとして立つにはRIPPLEのフラットさがちょうどよかった。
打ち合わせにRIPPLEに集まる。らくとあいすさんの提案で最初のセッションにはライブコーディングに0b5vrさんが入ってもらうことになった。透過スクリーンにコードを出た瞬間に、透過スクリーンはこのためにあったんじゃないかっていうぐらいバッチリハマっていた。いいイベントになる予感しかなかった。
音の盛り上がったり静かになったりの繰り返しが潮の満ち引きみたいだったのでイベント名はTideと名付けた。水面の反射みたいにして同じ意味の古英語のTydeを逆さまにつけた。
RIPPLEはさざ波や波紋という意味で、さざ波に揺れる水面に映る(reflection)文字が必ずしも一緒ではないし刻々と変化していく。同じように即興出た音、あるいは全体の流れの反映(reflection)も各々一緒ではなく刻々と変化する。
本番当日。他のアクトが良くてずっと高ぶっていた。渋めのマシンライブでしっかり聴かせて踊れる安定のNyolfenさん。M4ttyさんは「今日のテーマは…炎すね」と朴訥に語ったあと、テーマ通り熱い展開でらしおさんVJもバッチリ決まりすぎてて「MVか」って控室で大盛りあがり。
#TideTyde pic.twitter.com/bBh759IOat
— M4tt (@xM4Ty) August 15, 2022
控室で話してたisagenさんの「おかんのピザがうまい」という話をしてあずさんが「いい子やね~」ってお母さんみたいになったのも微笑ましかった。
これがやりたかった。今のUKジャズシーンが熱いのはDJもラッパーもジャズマンも垣根なくクラブでやってるからだ。そういうごちゃ混ぜなところから新しいインスピレーションが産まれるのだと思う。そういうものをVRのここで見つけたのだ。
演奏中はあまり記憶にないほど熱中していた。
セッション終盤、らくとあいすさんがさざ波の音を流しだして終わりの雰囲気を出し始めた。とっさに時計を見る。まだ終了予定時刻まで3分ある。ちらっと横を見て状況を確認するが誰も気づいてはない。まだ行けるんじゃないかと音の圧を上げる。YukiHataさんとisagenが乗ってきて流れが変わった。今までの演奏すべてが乗っかったフィナーレを迎える。
improvisation session Part2(3)
Paino,Key,Synth – lactoice @lactoice251
Drums – Yuki hata @bijutsuyarou
Guitar,Bass,Sampler,Drone – isagen
Percussion,Didgeridoo @tktk_1
Vocal,Voice Effect @azvo9VJ osirasekita @rashio_takise pic.twitter.com/TIgjxqDKmd
— isagen (@isagen7) August 15, 2022
ここには書ききれないけどVRChatの写真見返してて、どのワールドも楽しい思い出がいっぱい詰まっている。やっぱり人と人の痕跡が好きだ。